コーポレートガバナンスとコンプライアンスの違い!攻めと守りの構造

コーポレートガバナンス #コーポレートガバナンス・コード
コーポレートガバナンスとコンプライアンスの違い!攻めと守りの構造

「ガバナンスを強化しよう」と社内で提起したとき、「またルールが増えるのか」「法令はきちんと守っているのに、これ以上何をするのか」といった反応が返ってきたことはないでしょうか。とくに後者は、ガバナンスとコンプライアンスが同じものとして理解されていることを示しています。両者はどちらも不祥事を防ぐための取り組みとして一括りにされがちですが、目的も担い手も異なる概念です。

違いが共有されないままガバナンス改革を進めると、本来は事業を後押しするはずの取り組みが、現場には締め付けとしてしか伝わりません。本記事では、両者の構造的な差異を定義から整理し、内部統制やリスクマネジメントとの位置関係、そして攻めのガバナンスを実現するために取締役会が担うべき役割までを解説します。そのまま役員向けの研修や社内啓発の材料として使える形にまとめました。

コーポレートガバナンスとコンプライアンスの定義を確認する

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違いを論じる前に、それぞれが何を指す言葉なのかを確かめておきましょう。日常的に使われている語だからこそ、公式の定義に戻る意味があります。ここでは、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードが示す定義を出発点にします。

コーポレートガバナンスとは|意思決定を行うための仕組み

コーポレートガバナンス・コードは、コーポレートガバナンスを次のように定義づけました。上場会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みである、というものです。

注目したいのは、この定義に「不正を防ぐ」という言葉が入っていない点です。あくまで「意思決定を行うための仕組み」と位置づけられています。誰の立場を踏まえて、どのような質の意思決定を行うのか。それを担保する構造こそがコーポレートガバナンスだということになります。

多くの人が抱く「監視の仕組み」というイメージとは、出発点が異なります。まずこの定義を共有できるかどうかが、社内での議論の質を左右するでしょう。

コンプライアンスとは|法令遵守を核に、社会規範や企業倫理まで

一方のコンプライアンスは、法令遵守と訳される概念です。ただし実務では、法律に違反しないことだけでなく、社会規範や企業倫理に沿った行動までを含めて使われています。

法令に触れていなくても社会から批判を受ける行為はあり、そうした領域までカバーする語として定着してきました。範囲に幅はあるものの、共通しているのは「守るべき基準からの逸脱を防ぐ」という方向性です。

つまりコンプライアンスは、してはならないことを定め、そこから外れないようにする取り組みだと整理できます。ここがコーポレートガバナンスとの分かれ目です。

なぜ両者は混同されるのか

定義を並べれば違いは明らかなのに、実務では頻繁に混同されます。理由は、両者が語られる文脈が重なっているためです。

企業の不祥事が報じられるたび、原因として「ガバナンスの欠如」と「コンプライアンス違反」が同時に指摘されます。結果として、どちらも不祥事対策の文脈で耳にすることになり、同じ引き出しにしまわれてしまうのです。

さらに、社内で両方を所管する部署が同じであることも多く、施策としても一体で運用されがちです。混同には無理からぬ背景があるからこそ、意識的に整理し直す必要があります。

参考:東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/

攻めと守りで見る構造的な違い|3つの軸で比較

定義を押さえたところで、両者の構造的差異を具体的に見ていきましょう。目的、対象範囲と担い手、そして目指す方向という3つの軸で比べると、輪郭がはっきりします。

軸 コーポレートガバナンス コンプライアンス
目的 企業価値の向上に資する意思決定の質を担保する 法令や社会規範からの逸脱を防ぐ
対象範囲 取締役会の構成と運営、株主等との関係 全役職員の日常業務
担い手 取締役会、監査役等、株主 経営陣から現場の従業員まで

目的の違い|企業価値を高めるか、逸脱を防ぐか

第一の軸が目的です。コーポレートガバナンスが目指すのは、会社が持続的に成長し、中長期的に企業価値を高めていくことです。そのために意思決定の透明性と迅速さを両立させる構造をつくります。

対してコンプライアンスの目的は、逸脱の防止にあります。法令に違反しない、社会規範から外れない。この状態を維持することが達成すべきゴールです。

前者はプラスを大きくする取り組み、後者はマイナスを生まない取り組みと言い換えられます。ベクトルの向きがそもそも違うのです。

対象範囲と担い手の違い

第二の軸が、誰の何を対象とするかです。コーポレートガバナンスが扱うのは、取締役会の構成、社外取締役の比率、監督機能の設計、株主やその他のステークホルダーとの関係といった、会社の統治構造そのものになります。

コンプライアンスの対象は、全役職員の日常業務です。契約書の確認、ハラスメントの防止、情報の取り扱い、下請取引の適正化。現場の一つひとつの行動が対象になります。

したがって担い手も異なります。ガバナンスの担い手は取締役会や監査役等、そして株主です。コンプライアンスは、経営陣から現場の従業員まで組織全体が担います。この違いを踏まえずに施策を設計すると、届けるべき相手を取り違えることになります。

コードが掲げる「攻めのガバナンス」という位置づけ

第三の軸が、目指す方向です。ここで重要になるのが、コーポレートガバナンス・コードが前文で掲げている考え方です。

コードは、「守りのガバナンス」にとどまらない、いわば「攻めのガバナンス」の実現を目指すと述べました。さらに各原則について、経営陣にとっての制約と捉えることは適切ではなく、むしろ果断な意思決定やリスクテイクを伴う事業活動を後押しするものだとしています。

つまりガバナンスには守りと攻めの両面があり、守りの中核をコンプライアンスが担っています。そのうえでコードが目指すのは、そこにとどまらない攻めの側面です。「守りのコンプライアンス」と「攻めのガバナンス」という対比は、この構造を端的に言い表したものだと理解できます。

内部統制・リスクマネジメントとの関係を整理する

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コーポレートガバナンスとコンプライアンスの周辺には、内部統制やリスクマネジメントという語も並びます。これらの位置関係が整理できていないと、説明のたびに議論が拡散してしまうのです。

ここでは、内部統制を軸に3つの概念の関係を整理しましょう。

内部統制の4つの目的と、そのひとつとしてのコンプライアンス

内部統制については、金融庁が定める「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」が4つの目的を示しています。業務の有効性および効率性、報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守、そして資産の保全の4つです。

ここで注目したいのは、法令等の遵守が4つのうちのひとつとして位置づけられている点です。つまりコンプライアンスは、内部統制という枠組みの中の一要素にあたります。内部統制はコンプライアンスより広く、業務の効率性や資産の保全までを射程に入れているのです。

内部統制の基本的要素には「リスクの評価と対応」が含まれます。ただし、リスクマネジメント全体が、この基本的要素に収まるわけではありません。全社的リスクマネジメントは、経営戦略の選択や、リスクとリターンのバランスを踏まえた企業全体のリスク管理も扱います。ガバナンスおよび内部統制と一体的に整備・運用する取り組みとして捉えることが重要です。

内部統制システムの整備は取締役会の決議事項

もう一つ押さえておきたいのが、内部統制と取締役会の関係です。会社法は、業務の適正を確保するために必要な体制の整備を、取締役会が決定すべき事項として定めています(会社法362条4項6号)。

さらに大会社である取締役会設置会社については、この体制の整備を決定しなければならないとされています(同条5項)。内部統制は現場に任せきりにできる領域ではなく、取締役会が自ら方針を決める対象なのです。

この規定は、ガバナンスと内部統制のつながりを法律の側から示しています。統治構造の中で上位に位置する取締役会が、内部統制の基本方針を決める。この順序が、両者の関係を端的に表しています。

ガバナンス・内部統制・コンプライアンスを入れ子構造で捉える

ここまでを整理すると、3つの概念は並列ではなく入れ子の関係にあると言えるでしょう。最も外側にコーポレートガバナンスがあり、その中に内部統制があり、さらにその中の一要素としてコンプライアンスが位置します。

取締役会を含む統治構造が内部統制の方針を決め、その内部統制の目的のひとつとして法令遵守が置かれる。この階層で捉えれば、「ガバナンスとコンプライアンスはどちらが上位か」という問いにも答えられます。

社内で説明する際は、この入れ子の図を一枚用意しておくと理解が早まります。言葉を重ねるより、階層を見せるほうが伝わるためです。

参考:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」
https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230407/20230407.html

攻めと守りの違いを社内で共有しよう|混同が招く3つの弊害

ここまで整理してきた違いは、事務局が理解しているだけでは足りません。役員も現場も同じ理解を持っていなければ、ガバナンス改革の施策は意図したとおりに受け取られないからです。

混同を放置すると、実務にどのような影響が出るのか。代表的な3つの弊害を挙げます。

弊害①:ガバナンス強化が「締め付け」と受け取られる

最も起きやすいのが、ガバナンス強化という言葉が規制の強化として理解されてしまうことです。コンプライアンスと同じ引き出しに入っている限り、「また守ることが増える」という反応になります。

コードが述べているのは正反対の内容です。原則は経営陣への制約ではなく、果断な意思決定やリスクテイクを後押しするものだとされています。この前提が共有されていなければ、施策への協力は得られません。

ガバナンス改革の説明は、目的の共有から始める必要があります。何を防ぐための取り組みなのかではなく、何を可能にするための取り組みなのかを先に伝えることが重要です。

弊害②:コンプライアンス対応が済めばガバナンス対応も済んだと考えてしまう

2つ目が、達成度の取り違えです。研修を実施し、規程を整備し、内部通報制度を運用している。これらは確かにコンプライアンス上の重要な取り組みですが、それをもってガバナンスが機能しているとは言えません。

前章で見たとおり、コンプライアンスは内部統制の目的のひとつであり、ガバナンスの一部にすぎません。逸脱を防ぐ体制が整っていることと、企業価値を高める意思決定ができていることは、別の問題です。

「うちはコンプライアンスをしっかりやっている」という自己認識が、かえってガバナンス上の課題を見えにくくすることがあります。両者を分けて評価する視点を持ちましょう。

弊害③:攻めの議論の場が「守りの確認」に流れてしまう

3つ目は、取締役会の運営そのものに現れます。ガバナンスを守りの概念として捉えていると、取締役会の議題も自然と確認と承認に偏っていきます。

本来この場で交わされるべきなのは、中長期の戦略、資本の配分、事業ポートフォリオといった、企業価値に直結するテーマの議論です。ところが違いが共有されていないと、リスク報告と手続の確認で時間が埋まってしまいます。

つまり両者の混同は、抽象的な用語の問題にとどまりません。会議体の時間の使い方という、きわめて具体的な形で表れるのです。だからこそ、役員と現場の双方に構造を共有しておく価値があります。

攻めのガバナンスを実現する取締役会の議論の質と事務局DX

違いが共有できたとして、では攻めのガバナンスは何によって実現されるのでしょうか。答えは、取締役会でどのような議論が交わされているかに帰着します。

制度を整えても、そこで行われる議論が形式的であれば、意思決定の質は上がりません。最後に、議論の質と事務局の役割の関係を見ていきます。

攻めのガバナンスは、取締役会の議論の質に帰着する

社外取締役を増やし、委員会を設置し、規程を整備する。こうした体制面の整備は攻めのガバナンスの必要条件ですが、十分条件ではありません。

整えた体制の上で、中長期の戦略について本質的な議論が交わされているか。異なる視点からの問いが投げかけられ、それに応える形で経営判断が磨かれているか。この中身こそが、企業価値に結びつく部分です。

体制は外から見えますが、議論の質は外からは見えません。だからこそ、内側にいる事務局が意識的に働きかける必要があります。

議論の質を上げるために事務局が担っている工程

議論の質は、当日の会議室だけで決まるものではありません。議題の選び方、資料が事前に届いているか、社外取締役が判断に必要な情報を持てているか。こうした準備の積み重ねが、当日の議論を左右します。

ところが多くの事務局では、招集通知の作成、資料の取りまとめ、押印の回収、議事録の作成といった定型業務に時間を奪われています。議題の精査という最も価値の高い工程に、十分な時間を割けていないのが実情です。

攻めのガバナンスを妨げているのは、意識の問題ではなく時間の配分です。定型業務を圧縮できれば、事務局は議論の設計に向き合えるようになります。

「michibiku」が招集から議事録まで一気通貫で支える

取締役会DXプラットフォーム「michibiku」は、招集通知の作成と資料の配信、当日のペーパーレス運営、AIによる議事録要約、そして実効性評価までを一つのシステムでつなぎます。工程ごとに別のツールを使い分ける必要がありません。

定型業務にかかる時間が減れば、事務局は議題の精査や社外取締役への情報提供に注力できます。攻めのガバナンスを支える議論の質は、こうした準備の質から生まれるものです。

上場企業を中心とした導入実績があり、ガバナンス水準の高い運営を求められる企業での運用に対応してきた設計になっています。ガバナンス強化を体制の整備で終わらせず、議論の中身まで届かせたいとお考えであれば、一度ご確認ください。

まとめ:構造の違いを共有し、守りから攻めへ

コーポレートガバナンスとコンプライアンスは、目的も対象範囲も担い手も異なります。ガバナンスは企業価値の向上に資する意思決定の質を担保する仕組みであり、担い手は取締役会や監査役等、株主です。コンプライアンスは法令や社会規範からの逸脱を防ぐ取り組みで、経営陣から現場の従業員までが担います。この構造的差異が、両者を分ける核心です。

周辺概念との関係で言えば、3つは入れ子の構造にあります。最も外側にコーポレートガバナンスがあり、その中に内部統制があり、コンプライアンスは内部統制の4つの目的のひとつとして位置づけられます。リスクマネジメントは内部統制と密接に関係しますが、全社的リスクマネジメントは経営戦略やリスクとリターンのバランスも扱い、ガバナンスおよび内部統制と一体的に整備・運用する取り組みです。

この違いが社内で共有されていないと、ガバナンス強化が締め付けと受け取られ、コンプライアンス対応をもって十分だと誤解され、取締役会の時間が守りの確認に流れてしまいます。役員と現場の双方に構造を伝えておくことが、改革を前に進める前提と言えるでしょう。

そして攻めのガバナンスは、最終的に取締役会の議論の質に帰着します。「michibiku」は、招集から議事録、実効性評価までを一気通貫で支え、事務局が議題の精査に時間を使える状態をつくります。ガバナンス強化を体制の整備で終わらせたくないとお考えの取締役会事務局のご担当者様は、ぜひ一度資料請求やお問い合わせをご検討ください。