業績連動報酬とは?役員報酬に導入する種類とKPI設定・事務局の実務

コーポレートガバナンス #コーポレートガバナンス・コード
業績連動報酬とは?役員報酬に導入する種類とKPI設定・事務局の実務

「業績連動報酬を導入したいものの、どの制度が自社に合うのか分からない」

「評価指標(KPI:重要業績評価指標)をどのように設定すればよいのか迷っている」

「有価証券報告書での開示や税務上の扱いまで整理しきれない」

と感じている方もいるのではないでしょうか。

業績連動報酬とは、役員の報酬を企業の業績や中長期的な企業価値向上と連動させる仕組みです。一方で、固定報酬とのバランスや報酬の種類、評価指標の設定、開示、税務など、検討すべき論点は多岐にわたります。

さらに、報酬委員会や取締役会で制度内容を審議するため、事務局には資料作成や情報整理、決定プロセスの管理といった実務も求められます。

本記事では、業績連動報酬の基本的な仕組みから、業績連動賞与やRS・PSUなどの種類、ROEやESG指標を用いたKPI設定、損金算入・開示のポイント、事務局が押さえておきたい実務フローまで分かりやすく解説します。

業績連動報酬とは?役員報酬に導入する目的と基本の仕組み

役員報酬制度を設計する際は、固定報酬だけでなく、業績連動報酬や株式報酬をどのように組み合わせるかが重要な検討事項となります。報酬の構成や評価指標は、経営戦略や役員の役割、企業の成長段階などに応じて設計する必要があります。

ここでは、固定報酬との違いや業績連動報酬の役割、報酬構成を考える際のポイント、会社法361条や役員報酬の決定方針で確認すべき事項を解説します。

業績連動報酬とは?固定報酬との違いと役割

業績連動報酬とは、あらかじめ設定した業績指標の達成状況などに応じて、支給額や付与内容が変動する役員報酬です。営業利益やROEなどの財務指標のほか、企業によっては中長期の経営目標などを評価に取り入れる場合もあります。

固定報酬は、役位や職責などに応じて一定の金額を支給することを基本とします。一方、業績連動報酬には、経営目標の達成状況を報酬に反映し、経営陣のインセンティブとして機能させる役割があります。

また、業績連動報酬には、単年度の業績を反映する賞与などの短期インセンティブと、複数年度の業績や企業価値を反映する中長期インセンティブがあります。株式報酬を組み合わせることで、株主と経営陣の価値共有を意識した制度設計も可能です。

東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードでも、経営陣の報酬について、持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、中長期的な業績と連動する報酬や自社株報酬の割合を適切に設定する考え方が示されています。

ただし、業績への連動性を高めればよいとは限りません。短期的な数値だけを重視すると、経営判断が短期志向に偏る可能性もあります。自社の経営戦略と整合する評価指標や評価期間を設定することが重要です。

参考:東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/

固定報酬・業績連動報酬・株式報酬の構成を考えるポイント

役員報酬制度を設計する際は、固定報酬、短期の業績連動報酬、株式報酬などの中長期インセンティブを、どのような割合で組み合わせるかを検討します。

ただし、すべての企業に共通する「適切な構成比率」があるわけではありません。企業規模や業種、成長段階、経営戦略、役員の職責などによって、望ましい報酬構成は異なります。

例えば、次のような観点から検討するとよいでしょう。

  • 単年度の成果と中長期的な企業価値向上をバランスよく評価できるか
  • 業績が変動した場合でも、役員の職責に見合った報酬体系となっているか
  • 株主と経営陣の利害を共有できる仕組みになっているか
  • 過度なリスクテイクや短期的な数値目標への偏重を招かないか
  • 監督を主な役割とする社外取締役などの職責に適した設計になっているか

他社の報酬構成を参考にする場合も、単純に比率だけを比較するのではなく、その企業がどのような経営戦略や評価指標に基づいて制度を設計しているのかまで確認することが重要です。

事務局では、報酬委員会や取締役会で検討しやすいよう、自社の現行制度、同業他社の開示情報、経営計画との関係などを整理しておくと、制度設計の議論を進めやすくなります。

参考:東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/

会社法361条と役員報酬の決定方針で確認すべき事項

業績連動報酬を導入・変更する場合は、報酬制度の内容だけでなく、会社法上必要となる手続きについても確認する必要があります。

会社法361条では、取締役の報酬等について定款に定めがない場合、金銭による報酬額、算定方法、株式や新株予約権などを報酬として付与する場合の一定事項について、株主総会の決議で定めることとしています。

そのため、業績連動賞与や株式報酬を新たに導入する際も、「従来の報酬枠とは必ず別枠で決議する」と一律に考えるのではなく、導入する報酬の種類や既存の株主総会決議の内容を確認し、必要な決議事項を整理することが重要です。

また、会社法361条7項の対象となる会社では、取締役会が「取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針」を定める必要があります。

会社法施行規則98条の5では、この決定方針について、主に次のような事項を定めることとされています。

  • 固定報酬の額または算定方法に関する方針
  • 業績連動報酬の業績指標や算定方法に関する方針
  • 非金銭報酬の内容や算定方法に関する方針
  • 各報酬の構成割合に関する方針
  • 報酬を付与する時期や条件に関する方針
  • 個人別報酬の決定方法に関する事項

事務局では、株主総会決議、取締役会で定める報酬方針、報酬委員会での審議内容、実際の報酬制度が相互に整合しているかを確認することが重要です。自社の機関設計や報酬制度によって必要な手続きは異なるため、制度の導入・変更時には法務部門や専門家とも連携しながら進めるとよいでしょう。

参考:e-Gov法令検索「会社法第361条」https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086/#Mp-Pa_2-Ch_4-Se_4

参考:e-Gov法令検索「会社法施行規則第98条の5」https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000010012#Mp-Pa_2-Ch_4-Se_3

業績連動型役員報酬の種類|賞与・RS・PSUなどの特徴を比較

記事のイメージ画像

役員報酬には、単年度の業績を反映する現金賞与や、中長期的な企業価値向上を意識した株式報酬など、さまざまな仕組みがあります。それぞれ評価期間や支給方法、報酬が変動する条件が異なるため、自社の経営戦略や役員に期待する役割に合わせて選択することが重要です。

なお、株式報酬のすべてが業績連動型とは限りません。例えば譲渡制限付株式(RS)は、業績条件を設けずに一定期間の継続的な役務提供などを条件とする設計もあります。

ここでは、短期インセンティブ(STI)、RSやPSUなどの中長期インセンティブ(LTI)、ストックオプションの特徴と違いを整理します。

業績連動型賞与など短期インセンティブ(STI)の仕組み

短期インセンティブ(STI:Short-TermIncentive)は、主に1事業年度など比較的短い期間の業績や目標達成度を報酬に反映する仕組みです。業績連動賞与など、金銭で支給する制度が代表例として挙げられます。

評価指標には、営業利益や当期利益、売上高などの財務指標のほか、企業の方針によって個人目標や非財務指標を組み合わせる場合もあります。

例えば、役位ごとに基準となる報酬額を設定し、業績指標の達成度に応じた支給率を掛け合わせて賞与額を算定する方法があります。どの指標を採用するかは、企業が経営陣にどのような成果を求めるかによって異なります。

STIは、年度ごとの経営目標と報酬を結び付けやすい点が特徴です。一方で、単年度の指標のみを重視すると、短期的な成果を優先するインセンティブが強くなる可能性もあります。そのため、中長期の経営戦略との整合性や、LTIとのバランスも含めて設計することが重要です。

参考:経済産業省「『攻めの経営』を促す役員報酬~企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/pdf/230331incentiveplan.pdf

譲渡制限付株式(RS)とPSUなど中長期インセンティブ(LTI)の特徴

中長期インセンティブ(LTI:Long-TermIncentive)は、複数年度の業績や企業価値向上など、中長期の成果を役員報酬に反映するための仕組みです。株式を利用する制度が多く、経営陣と株主との価値共有を図る目的でも活用されています。

代表的な株式報酬として、譲渡制限付株式(RS:RestrictedStock)とPSU(PerformanceShareUnit)があります。

RSは、役員などに自社株式を交付し、一定期間の譲渡制限を設ける仕組みです。制度によっては、一定期間の役務提供などを条件に譲渡制限を解除します。必ずしも業績指標に連動する制度ではなく、中長期的に株式を保有してもらうことで株主との価値共有を促す目的でも利用されます。

一方、PSUは、一定の評価期間を設け、あらかじめ定めた業績指標の達成度などに応じて最終的な交付株式数を決定する仕組みです。ROEやTSRなどの財務・市場指標を用いるほか、企業によっては非財務指標を組み合わせるケースもあります。

そのため、RSとPSUは「どちらが優れているか」ではなく、報酬制度で何を実現したいかを基準に検討することが重要です。継続的な株式保有による価値共有を重視するのか、中期経営計画などの達成度を報酬へ反映したいのかによって、適した制度は異なります。

参考:金融庁「『役員の報酬等』の開示の好事例集」https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20230324/20230324.html

参考:国税庁「業績連動型譲渡制限付株式報酬の業績連動給与該当性について」https://www.nta.go.jp/about/organization/kumamoto/bunshokaito/shotoku/210129/besshi.htm

ストックオプションとの違いと制度選択の考え方

ストックオプション(SO)は、あらかじめ定めた価格などの条件で、将来自社株式を取得できる権利を付与する仕組みです。RSやPSUが株式そのものを交付する制度であるのに対し、ストックオプションでは新株予約権を付与する点が大きな違いです。

一般的なストックオプションでは、株価が権利行使価格を上回るほど、権利を行使した際に得られる経済的利益が大きくなります。そのため、株価上昇と報酬を結び付けやすいという特徴があります。

一方、RSは株式を保有することによる中長期的な価値共有、PSUは一定期間の業績達成度を報酬へ反映しやすい点が特徴です。それぞれインセンティブが働く仕組みが異なるため、企業の成長段階だけで制度を決めるのではなく、次のような観点から検討する必要があります。

  • 役員にどのような成果を期待するのか
  • 単年度と中長期のどちらを重視するのか
  • 株価や業績指標との連動性をどの程度持たせるのか
  • 株主との価値共有をどのように設計するのか
  • 会計・税務や管理面でどのような実務が発生するのか

複数の制度を組み合わせる企業もあるため、事務局では各制度の特徴だけでなく、既存の報酬体系や経営戦略との整合性を整理したうえで、報酬委員会や取締役会の検討資料に落とし込むことが重要です。

参考:経済産業省「ストックオプション税制/インセンティブ報酬ガイダンス」https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/stock-option.html

業績連動報酬のKPI設定・損金算入・開示で押さえるポイント

業績連動報酬を運用する際は、どのような成果を報酬に反映するのかを示すKPIの設定に加え、税務や開示に関する要件を確認する必要があります。KPIは単に測定しやすい指標を選ぶのではなく、自社の経営戦略や役員に期待する役割との整合性を考えることが重要です。

また、法人税法上の「業績連動給与」として損金算入を検討する場合には、算定方法や決定手続、開示など一定の要件があります。ここでは、財務・非財務KPIの考え方から、損金算入、有価証券報告書で確認したい開示事項まで解説します。

業績連動報酬のKPIはどう決める?ROEなど財務指標の設定方法

業績連動報酬のKPIを設定する際は、自社の経営戦略や中期経営計画と結び付いた指標を選ぶことが基本です。報酬制度と経営目標を連動させることで、経営陣に期待する成果を明確にできます。

財務指標には、営業利益や当期純利益、売上高、ROE(自己資本利益率)、ROIC(投下資本利益率)などがあります。また、中長期インセンティブでは、TSR(株主総利回り)など株主価値と連動する指標を採用する方法もあります。

経済産業省の資料によると、日経225企業では、短期インセンティブ(STI)に営業利益や当期純利益、売上高などが多く採用され、中長期インセンティブ(LTI)ではROEやTSRなども多く用いられています。

ただし、特定の指標を採用すればよいというものではありません。例えば売上高を重視すれば事業規模の拡大を評価しやすい一方、収益性や資本効率を十分に反映できない場合があります。

事務局では、報酬委員会や取締役会で検討できるよう、「なぜそのKPIを選ぶのか」「経営戦略とどのようにつながるのか」「目標値や評価期間をどう設定するのか」を整理しておくことが重要です。

参考:経済産業省「第6回価値創造経営小委員会事務局資料」https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/value_creation/pdf/006_03_00.pdf

ESG・人的資本など非財務指標をKPIに組み込む際の考え方

業績連動報酬では、財務指標だけでなく、ESGや人的資本などの非財務指標を組み合わせる方法もあります。

経済産業省の資料では、役員報酬の評価指標について、売上高や営業利益、ROE、ROICなどの財務指標に加え、必要に応じてCO2排出量の削減や従業員満足度などの非財務指標を採用することも考えられるとしています。

例えば、次のような指標が候補になります。

  • CO2・温室効果ガス排出量の削減
  • 従業員エンゲージメントや満足度
  • 女性管理職比率など人材の多様性に関する指標
  • 人材育成や人的資本への投資に関する指標
  • 安全・品質・コンプライアンスに関する指標

非財務指標を取り入れる際に重要なのは、自社の重要課題と関係の深い指標を選び、評価方法をできるだけ明確にすることです。定性的な評価だけでは、報酬額を決めた根拠が分かりにくくなる場合があります。

一方で、「ESG指標を何%組み込むべき」といった一律の基準があるわけではありません。財務指標とのバランスや役員の担当領域、経営戦略との関係を踏まえて、自社に適したウェイトを設定する必要があります。

参考:経済産業省「社外取締役向けケーススタディ集―想定される場面と対応―」https://www.meti.go.jp/files/900013553.pdf

業績連動報酬の損金算入で確認したい税務上の要件

役員に支給する業績連動報酬が、すべて法人税法上の損金として認められるわけではありません。法人税法第34条第1項第3号の「業績連動給与」として損金算入する場合は、法令で定められた要件を満たす必要があります。

国税庁が示す主な要件には、次のようなものがあります。

  • 利益、株式の市場価格、売上高など一定の業績連動指標を基礎とした客観的な算定方法であること
  • 支給額や株式数などについて確定した上限が設けられていること
  • 報酬委員会による決定など、法令で定める適正な手続きを経ていること
  • 算定方法の内容を手続終了後、遅滞なく有価証券報告書への記載などにより開示すること
  • 業績指標が確定した後、法令で定められた期間内に支給・交付すること
  • 損金経理を行っていること

また、損金算入できる業績連動給与は、対象となる法人や業務執行役員、報酬の種類などにも要件があります。例えば同族会社については、一定の完全支配関係がある場合に限られるなどの条件が設けられています。

税務上の取り扱いは制度設計によって異なるため、事務局だけで判断せず、導入・変更の段階から経理・税務部門や税理士などの専門家と確認することが重要です。

参考:国税庁「算定方法の内容の開示(業績連動給与)」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/11/19.htm

有価証券報告書における役員報酬の開示項目と確認ポイント

上場会社等では、有価証券報告書の「役員の報酬等」において、役員報酬の決定方針や報酬額など、所定の事項を開示する必要があります。

業績連動報酬が含まれる場合には、業績連動報酬に用いた指標や、その指標の目標・実績なども確認対象となります。また、報酬の決定権限や、報酬決定に関与する委員会がある場合には、その手続や活動内容についても開示事項となります。

事務局では、例えば次のような点を確認するとよいでしょう。

  • 報酬制度や算定方法の説明が実際の運用と一致しているか
  • 業績連動報酬で採用したKPIの目標と実績が適切に記載されているか
  • 固定報酬・業績連動報酬・非金銭報酬などの区分に整合性があるか
  • 報酬決定方針と実際の個人別報酬の決定プロセスに矛盾がないか
  • 報酬委員会や取締役会の活動内容が適切に反映されているか

なお、法人税法上の業績連動給与を損金算入するために求められる「算定方法の開示」と、有価証券報告書における役員報酬の開示制度は、目的や要件が同一ではありません。

税務上の要件では、業務執行役員ごとに、業績連動指標、支給額・株式数等の上限、客観的な算定方法の内容を明らかにすることが求められています。個人名まで開示する必要はなく、算定方法が明らかになる場合には役職別の開示でも足りるとされています。

事務局では、金融商品取引法上の開示と税務上の損金算入要件を混同せず、それぞれ必要な記載を確認することが重要です。

参考:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令(案)等の公表について」https://www.fsa.go.jp/news/21/sonota/20100212-2.html

参考:国税庁「算定方法の内容の開示(業績連動給与)」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/11/19.htm

業績連動報酬を運用する事務局の実務と取締役会DXの活用

記事のイメージ画像

業績連動報酬を運用する際は、制度を決めて終わりではありません。KPIの実績確認や報酬額の算定、報酬委員会・取締役会に提出する資料の準備、開示内容の確認など、事務局には継続的な対応が求められます。

特に、報酬に関する資料は機密性が高いうえ、複数の会議体や関係部署との連携が必要です。あらかじめ実務フローを整理し、必要な情報を管理しやすい環境を整えておくことが重要になります。

ここでは、制度設計から報酬額の決定までに事務局が行う実務、クローバック・マルス条項などのリスク管理、取締役会DXを活用した情報管理について解説します。

制度設計から決定までに事務局が整理する情報と資料

業績連動報酬を導入・見直す際、事務局には報酬委員会や取締役会が制度の妥当性を検討できるよう、必要な情報を整理する役割があります。

準備する資料は企業によって異なりますが、例えば次のような情報が考えられます。

  • 現在の役員報酬制度と報酬構成
  • 過去の業績や中期経営計画の目標
  • 業績連動報酬に採用するKPIと選定理由
  • KPIの目標値と報酬額の算定方法
  • 業績が変動した場合の報酬額シミュレーション
  • 株主総会で決議された報酬枠や決定方針
  • 同業他社などの役員報酬に関する公開情報
  • 有価証券報告書などで必要となる開示内容

重要なのは、多くの資料を集めること自体ではなく、「なぜこのKPIを採用するのか」「経営戦略とどのように結び付くのか」「報酬額がどのように変動するのか」を委員や取締役が確認できる状態にすることです。

経済産業省の資料でも、役員報酬の開示項目として、業績連動指標の選定理由、報酬の構成割合、目標値と実績、取締役会・報酬委員会で審議した内容などが整理されています。

事務局では、会議ごとに必要な資料を整理するとともに、前回の審議内容や修正履歴を追えるようにしておくと、継続的な制度運用にも役立ちます。

参考:経済産業省「第6回「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/earning_power/pdf/006_03_00.pdf

KPIの実績確認・報酬額算定・承認までの実務フロー

業績連動報酬では、評価期間が終了した後、設定したKPIの実績を確認し、あらかじめ定めた算定方法に基づいて報酬額や交付株式数などを算出します。

一般的な実務の流れは、次のように整理できます。

  1. KPIの実績値を確認する
    経理・経営企画などの関係部署から、報酬算定に使用する確定数値を収集します。
  2. 算定式に基づいて報酬額を計算する
    あらかじめ決めた算定方法に実績値を当てはめ、役員ごとの支給額や交付数を確認します。
  3. 報酬委員会などで審議する
    報酬委員会を設置している場合は、自社の権限設計に従って算定結果や評価内容を審議します。
  4. 必要な機関決定を行う
    取締役会など、自社の報酬決定プロセスに従って必要な決定を行います。
  5. 支給・開示等の手続きを進める
    報酬の種類に応じた支給・交付手続きや、必要な開示を行います。

税務上の「業績連動給与」として損金算入する場合は、算定方法や決定手続、開示、支給時期などについて法人税法上の要件があります。国税庁も、算定方法の内容を決定後遅滞なく開示することなどを要件として示しています。

制度によって適用される要件が異なるため、事務局では「すべての業績連動報酬に同じ期限が適用される」と考えず、経理・税務部門や税理士などと確認しながらスケジュールを設定することが重要です。

また、計算過程や承認状況をチェックリストなどで記録しておけば、算定ミスや確認漏れを防ぎやすくなります。

参考:国税庁「算定方法の内容の開示(業績連動給与)」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/11/19.htm

クローバック・マルス条項など報酬制度のリスク管理を確認する

業績連動報酬では、報酬を決定した後に不正行為や重大な誤りなどが判明する可能性も考慮し、報酬の減額・没収・返還に関する仕組みを設ける場合があります。

代表的なのが「マルス条項」と「クローバック条項」です。

マルス条項は、一定の事由が発生した場合に、まだ確定・支給されていない報酬を減額または没収する仕組みです。一方、クローバック条項は、すでに支給した報酬について一定の条件のもとで返還を求める仕組みを指します。

金融庁が公表する役員報酬の開示例でも、不祥事など企業価値向上に反する行為があった場合に、報酬の減額や返還を行うマルス・クローバック条項の事例が紹介されています。

ただし、すべての企業に導入が義務付けられている制度ではありません。導入する場合は、例えば次の事項を整理する必要があります。

  • どのような事象を発動条件とするか
  • どの報酬を対象とするか
  • 減額・返還の範囲をどのように決めるか
  • 誰が発動を判断するか
  • 社内規程や契約、開示へどのように反映するか

事務局では、報酬委員会や法務部門などと連携し、自社の報酬制度やリスク管理方針との整合性を確認することが重要です。

参考:金融庁「『役員の報酬等』の開示例」
https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20230324/01.pdf

報酬委員会と取締役会の資料を一元管理して事務局業務を効率化する

業績連動報酬の運用では、報酬委員会や取締役会で複数回にわたり審議するケースがあります。資料をメールや個別のファイルで管理していると、最新版の確認や配布状況の把握、過去資料の検索などに手間がかかることもあるでしょう。

取締役会DXを活用し、会議資料や議事録などを一元的に管理できる環境を整えることは、こうした事務局業務を効率化する方法の一つです。

取締役会DXプラットフォーム「michibiku(ミチビク)」では、招集通知から議事録、電子署名、資料の保管までをオンラインで管理できます。また、取締役会だけでなく、経営会議や各種委員会など、企業の会議体構成に応じた重要会議の管理にも対応しています。

さらに、会議音声のAIによる文字起こしや自動要約にも対応しており、重要会議の内容をデータとして蓄積・活用できる仕組みが提供されています。

報酬に関する資料は機密性が高いため、ツール導入時には機能だけでなく、アクセス権限やセキュリティ体制も確認することが重要です。

報酬委員会と取締役会にまたがる資料や議事内容を整理しやすい環境を整えることで、事務局は資料管理などの定型業務だけでなく、制度設計や審議に必要な情報整理にも時間を充てやすくなります。

まとめ:業績連動報酬の制度設計と運用体制を整えよう

業績連動報酬を効果的に運用するには、自社の経営戦略や役員の役割に合った制度設計が重要です。財務・非財務のKPIをどのように設定するかに加え、会社法上の手続き、税務上の損金算入要件、有価証券報告書での開示についても確認する必要があります。

また、制度導入後は、KPIの実績確認や報酬額の算定、報酬委員会・取締役会での審議、資料管理など、事務局が担う業務も多岐にわたります。

こうした実務を円滑に進めるためには、関係部署との役割分担や確認フローを整備するとともに、会議資料や議事内容を一元管理できる取締役会DXを活用することも選択肢の一つです。制度設計と運用の両面から体制を整え、自社に適した業績連動報酬の運用につなげていきましょう。