2026.10.19
会社法362条4項とは?取締役会の専決事項一覧と委任できない重要事項の解説
取締役会の事務局として、どの議題を必ず決議事項にすべきか迷うことはありませんか。その判断の出発点となるのが会社法362条4項です。この条文は、取締役会が代表取締役などに決定を委ねてはならない7つの専決事項を定めています。
本記事では、各号の内容を具体例とともにわかりやすく解説し、決議を見落とした場合のリスクや実務上の判断ポイントまで整理します。条文の理解を深め、確実な議題運営につなげていきましょう。
会社法362条4項とは?取締役会が自ら決めるべき7つの事項
会社法362条4項は、取締役会の運営において最も基本となる条文のひとつです。どのような事項が決議の対象になるのかを理解しないまま議題を整理すると、決議漏れのリスクにつながります。まずは条文の趣旨と全体像を押さえましょう。
なぜ代表取締役に決定を任せられないのか|362条4項の趣旨
取締役会設置会社では、取締役会が会社の意思決定機関として位置づけられ、代表取締役はその決定に基づいて業務を執行する立場にあります。通常、細かな業務執行は効率化のために取締役へ委任されますが、会社に与える影響が極めて大きい事項まで委任してしまうと、経営の透明性が失われるおそれがあります。
そこで会社法362条4項では、会社の根幹に関わる決定について、取締役会が自ら議論し決定しなければならないと定めています。これが専決事項と呼ばれる仕組みであり、合議によるチェック機能を確保するための重要な規定です。
362条4項が定める7つの専決事項の一覧
条文では、以下の7つの事項について「取締役会は取締役に委任することができない」と明記されています。
| 号 | 専決事項の内容 |
|---|---|
| 1号 | 重要な財産の処分及び譲受け |
| 2号 | 多額の借財 |
| 3号 | 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任 |
| 4号 | 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止 |
| 5号 | 社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項 |
| 6号 | 内部統制システムの整備 |
| 7号 | 定款の定めに基づく役員等の責任免除 |
これら7つは、いずれも会社の経営に大きな影響を与える事項として法律で明示されており、取締役会規則などで定めても取締役に決定権を委ねることはできません。
7号以外にも決議が必要になる「その他の重要な業務執行」とは
362条4項の柱書には「次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定」という表現があります。つまり、7つの号に列挙された事項以外でも、同程度に重要だと判断される業務執行は決議が必要になるということです。
具体的に何が該当するかは個別の事案ごとに判断されますが、想定外の重要案件に備えて、付議基準のなかに「重要と判断される事項は取締役会に諮る」といった包括的なルールを設けておく企業も少なくありません。号ごとの基準だけに頼らず、こうした受け皿を用意しておくことが安全な運用につながります。
参考:e-Gov法令検索「会社法」第362条
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086?occasion_date=20221101
1号・2号|財産の処分と借入れに関する2つの専決事項
専決事項のなかでも実務上の登場頻度が高く、判断に迷いやすいのが1号の「重要な財産の処分」と2号の「多額の借財」です。これらは会社の財務状態に直結するため、法律で厳格な管理を求めています。どのようなケースが決議対象となるのか、整理していきましょう。
1号「重要な財産の処分及び譲受け」に該当する具体例
1号が定める「重要な財産の処分及び譲受け」には、不動産や有価証券の売却、設備の廃棄などが含まれると解されています。さらに、出資や貸与、担保としての提供、債権の放棄、債務の免除なども対象になり得ます。例えば、主力工場の敷地を売却する場合や、重要な知的財産権を譲り受ける場合などが該当します。
契約を形式的に分割して1件あたりの金額を下げたとしても、実質的に一連の取引であれば合算して重要性を判断すべきとされている点にも注意が必要です。
2号「多額の借財」に該当する取引の具体例
2号の「借財」とは、会社が金銭債務を負担する行為全般を指します。銀行からの借入れやシンジケートローンはもちろん、約束手形の振出や為替手形の引受け、債務保証、デリバティブ取引なども含まれると解されています。
単発の借入れだけでなく、借換えのための資金調達であっても、金額が多額であれば取締役会の決議が必要です。一連の取引については、1件ごとの金額だけでなく、累積残高も考慮して実質的に判断することが求められます。
「重要」「多額」をどう判断するか|金額と性質の2つの視点
「重要」や「多額」に当たるかどうかは、法律上の明確な数値基準があるわけではありません。財産の価額や総資産・経常利益に占める割合、保有目的、これまでの取り扱いなどを総合的に考慮して判断するとされています。実務上の目安として、単体総資産の1%程度を基準とする見解もありますが、これはあくまで参考値です。
寄付金や債務免除のように反対給付のない行為は、通常の取引よりも低い金額で重要性を判断する運用も見られます。金額という量的な基準だけでなく、その行為の性質という質的な基準も合わせて検討する姿勢が大切です。
3号・4号|人事と組織に関する2つの専決事項
3号と4号は、会社の人事体制や組織構造に関わる専決事項です。優秀な人材の配置や拠点の管理は経営の根幹に関わるため、取締役会が直接関与する必要があります。どの役職が対象になるのか、実務上のポイントを整理しましょう。
3号「重要な使用人の選任及び解任」|本部長や支店長が該当する理由
3号は、支配人その他の重要な使用人の選任及び解任を専決事項として定めています。重要な使用人とは、一般的に本部長や工場長、支店長など、使用人としての立場でありながら高い権限を持つ者を指すとされています。
役職名そのものよりも、実際にどれだけの権限を有しているかが判断のポイントです。執行役員や事業部長といったポジションも、その権限の大きさによってはこの区分に該当する可能性があります。
4号「重要な組織の設置、変更及び廃止」に該当する具体例
4号は、支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止を専決事項としています。具体的には、海外拠点の新設や、既存の支店・事業部の統廃合、全社的なプロジェクトを担う新本部の創設などが該当します。
組織の改編は会社のガバナンス体制や業務執行ラインに直接影響するため、代表取締役の判断のみで進めることはできません。事業規模の拡大や縮小に伴う組織変更を検討する際は、早い段階から取締役会への付議を視野に入れておく必要があります。
職務権限規程で「重要な使用人」をあらかじめ定義しておく重要性
何が「重要な使用人」や「重要な組織」にあたるかは、会社の規模や業態によって異なります。そのため、職務権限規程などの社内規程で、対象となる役職や組織の範囲をあらかじめ明確に定義しておくことが実務上推奨されます。
社内での階層が幅広い支店長クラスなどを一律に扱うと、決議漏れや過剰な付議が発生しかねません。事前にルール化しておくことで、事務局の判断負担を減らしながら、確実な運用につなげられます。
5号・6号・7号|社債・内部統制・責任免除に関する3つの専決事項
5号から7号は、社債の発行、内部統制システム、役員の責任免除という、やや専門的に見える事項です。それぞれの位置づけを整理しておきましょう。
5号「社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項」とは
5号は、社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項のうち、法務省令で定めるものを専決事項としています。具体的には、会社法施行規則99条により、募集社債の総額の上限や利率の上限、払込金額に関する事項の要綱などが対象とされています。
社債は将来的に会社が返済すべき債務であり、既存の株主や債権者の利害にも関わるため、こうした条件は取締役会で決める必要があります。これら以外の細かな事項については、取締役会が要綱を定めたうえで代表取締役に委任することも可能です。
6号「内部統制システムの整備」と継続的な見直しの必要性
6号は、内部統制システムの整備に関する基本方針の決定を専決事項としています。会社法施行規則100条に基づき、法令遵守体制やリスク管理体制、企業集団全体の業務の適正を確保するための体制などを構築することが求められます。
さらに会社法362条5項では、大会社である取締役会設置会社は、この内部統制システムの整備について必ず決定しなければならないと定められています。一度決定すれば終わりではなく、法令改正や事業環境の変化に応じて、運用状況を継続的に評価し見直していく姿勢が欠かせません。
7号「役員等の責任免除」が定款の定めに基づく理由
役員が任務を怠って会社に損害を与えた場合、原則として損害賠償責任を負います。7号は、定款の定めに基づき、取締役会の決議によってこの責任を一定範囲で免除できることを定めています。
定款にこの定めがない会社では、そもそも取締役会による責任免除は行えません。役員の責任を軽減する判断は自己保身につながるおそれもあるため、個別の役員に任せず、取締役会が公正に判断する仕組みになっています。
参考:Lawzilla(迷わない法令データベース)会社法施行規則-第99条
https://lawzilla.jp/law/418M60000010012?n=ln99.1&mode=only
専決事項を見落とすとどうなる?知っておきたい2つのリスク
専決事項を正しく区分できていない場合、企業は重大なリスクを負うことになります。ここでは、決議漏れが引き起こす2つの主要なリスクを確認しておきましょう。
取締役会決議を欠いた取引が無効になるリスク
取締役会の決議を経ずに重要な業務執行にあたる取引を行った場合、その取引が無効と判断される可能性があります。判例では、取引相手が決議の不存在を知っていた、あるいは知ることができた場合に、会社が無効を主張できるとされています。
重要な財産の譲渡などが無効になれば、取引先との信頼関係が崩れ、事業運営に大きな支障をきたしかねません。
取締役が任務懈怠責任を問われるリスク
決議が必要な事項を決議せずに実行した結果、会社に損害が生じた場合、担当した取締役は善管注意義務違反として任務懈怠責任を問われる可能性があります。さらに、これは取締役の解任事由にも該当し得るとされています。他の取締役についても、当該業務執行に対する監視義務を怠って会社に損害を生じさせた場合には、同じ損害について責任を負う他の役員等と連帯して損害賠償責任を負うことがあります。
実際の裁判例でも、社内の職務権限基準表で取締役会決議事項と定められていた契約案件について、決議を経ずに支出を行ったことが会社法362条4項違反にあたると判断されたケースがあります。社内規程で定めた付議基準であっても、裁判では尊重される重要な判断材料になることがわかります。
専決事項の判断で事務局が迷う3つの実務ポイント
専決事項の判断は、条文を読むだけでは解決しない実務上の悩みが多くあります。ここでは、事務局が押さえておきたい3つのポイントを整理します。
金額基準だけでは判断できない案件をどう拾うか
総資産比1%といった金額基準は明確ですが、それだけでは判断しきれない案件があります。金額が小さくても、将来の大きな損失につながる訴訟案件や、社会的信用の失墜を招くコンプライアンス事案は「その他の重要な業務執行」に該当する可能性があります。
こうした案件を拾い上げるには、事務局が各部門から情報を収集し、代表取締役と連携しながら質的な重要性を検討するプロセスが欠かせません。
機関設計によって委任できる範囲が変わる仕組み
会社の機関設計によって、取締役に委任できる範囲は異なります。監査等委員会設置会社では、取締役の過半数が社外取締役である場合、または定款に委任を認める定めがある場合に、取締役会の決議によって、重要な業務執行の決定を取締役に委任できます。ただし、法令上委任できない事項は除きます。指名委員会等設置会社では、一部の事項を除き、原則として業務執行の決定を執行役に大幅に委任することが認められています。
自社がどの機関設計を採用しているかによって、付議基準の設計方針も変わってくるため、見直しの際はまず自社の機関設計を踏まえた検討が必要です。
付議事項の一覧化が決議漏れの防止につながる理由
過去にどのような議題を決議・報告してきたかを一覧で把握できていないと、同種の案件を見落としたり、付議基準の運用にばらつきが生じたりするリスクがあります。
362条4項の各号をもとにした付議事項一覧を作成し、照らし合わせてチェックする仕組みを整えることで、事務局の属人的な判断ミスを防げます。過去の判断事例を蓄積しておくことは、監査役や投資家への説明責任を果たすうえでも役立ちます。
専決事項の管理と議題設計を支える「michibiku」の活用法
専決事項の判断やアジェンダ設定を確実に行うには、ITツールの活用が効果的です。取締役会DXプラットフォーム「michibiku」を例に、専決事項の管理を支援する機能を見ていきましょう。
付議事項を自動で一覧化し、決議漏れを防止する
michibikuは過去の付議事項を自動で一覧化する機能を備えています。どの議題が決議・報告のいずれであったかを可視化することで、362条4項で定められた専決事項のヌケ・モレを視覚的に検知できます。
一覧化したデータは監査対応の資料としても活用できるため、事務局が手作業でリストを更新し続ける手間と、人的ミスのリスクを軽減できる点が特徴です。
資料共有とコミュニケーションを一元化し、議論の時間を確保する
招集通知の送付から資料共有、議事録作成、電子署名までをオンラインで完結できます。紙の資料準備やメールでのやり取りに費やしていた時間を削減できれば、事務局は議題設定の質を高める業務に時間を使えるようになります。
役員も移動中にスマートフォンやタブレットで資料を確認でき、事前の理解が深まることで、当日の議論もより充実したものになります。
実効性評価のPDCAを回し、付議基準の運用を継続的に改善する
取締役会の実効性を高めるには、付議基準を継続的に見直すことが欠かせません。michibikuのアンケート機能を活用すれば、実効性評価の集計や分析を効率化できます。
評価結果をもとに、どの案件を委任し、どの案件を深く議論すべきかという付議基準の改善を進めることで、取締役会の運営をより実効性の高いものへと進化させていけます。
まとめ|会社法362条4項を正しく理解し、確実な議題運営につなげる
会社法362条4項は、取締役会が自ら決定すべき7つの専決事項を定めた、ガバナンスの土台となる条文です。財産処分や借財、人事、内部統制など、各号の内容を正しく理解し、自社の付議基準に落とし込むことが、決議漏れを防ぐ第一歩になります。判断に迷う案件は、金額基準と性質の両面から検討する姿勢が欠かせません。
決議漏れは取引の無効や役員の責任追及だけでなく、企業の社会的信頼を損なうことにもつながります。本記事で紹介した一覧表や実務ポイントを参考に、自社の付議事項を一度見直してみてはいかがでしょうか。
本記事の内容は、公開時点の法令に基づいています。具体的な法的判断については、顧問弁護士等の専門家にご相談ください。





