2025.06.19
日本企業の稼ぐ力を高める取締役会改革
ミチビク株式会社 代表取締役 中村竜典

INDEX
ミチビク株式会社(以下、「当社」と言う)は、取締役会の運営を効率化・高度化する「取締役会DXプラットフォーム」を提供し、企業のガバナンス改革を支援しています。
当社CEOの中村竜典に、日本経済停滞の背景にあるコーポレートガバナンスの課題と、取締役会改革による企業価値向上の道筋について、話を聞きました。
日本経済停滞とコーポレートガバナンス
日本経済は長年停滞し「失われた30年」とも言われますが、その数多くある要因の一つに日本企業のコーポレートガバナンスの問題が指摘されています。この点について、まずどのようにお考えでしょうか?
中村
確かに、日本企業の多くは長期間にわたり低成長・低収益に悩んできました。
その背景には様々な要因がありますが、私は経営の最高意思決定機関である取締役会が十分に機能していないことも大きな要因だと考えています。
言い換えれば、本来、もっとポテンシャルがあるはずなのに、取締役会の本来の役割が十分に活かされておらず、企業の「稼ぐ力」が最大限発揮されていないのです。
取締役会の役割と理想の姿
では、取締役会の本来あるべき役割とはどのようなものなのでしょうか?
中村
取締役会は、本来、企業の最高意思決定機関であり、経営戦略やリスク対応など重要事項を議論し、会社を成長に導く「頭脳」とも言える存在です。
本来あるべき取締役会は、中長期的な方向性や企業価値向上策を率直に議論し、経営陣への監督と助言を通じて企業の舵取りをする役割を担います。
言い換えれば、取締役会を企業成長のドライバーにすることが理想です。
取締役会の現状と課題
一方で、現状の日本企業の取締役会は必ずしもその理想どおりに機能していないそうですね。具体的にはどんな課題がありますか?
中村
多くの企業では、取締役会で本来議論すべき中長期の戦略や重要課題に十分な時間が割かれていません。
代わりに、足元の業績報告や個別案件の承認など、報告・承認事項に多くの時間が費やされているのが現状、と言う光景が珍しくありません。
そのため会議も、経営陣からの説明や状況報告を受ける質疑応答で終始し、肝心の戦略議論が深まらないケースが少なくありません。
形式的には指名委員会や報酬委員会などのガバナンス体制を導入する企業も増えてきましたが、その実効性については疑問の声もあります。例えば、CEO自らが自分の評価に関与しているようなケースもあると聞きますが?
中村
おっしゃる通りです。
指名委員会・報酬委員会を設置する企業は増えましたが、その運用を見ると、委員の独立性が十分確保されていない例も散見されます。
例えば、現任の社長が指名委員会のメンバーに入っていると、次期経営者の指名や自身の評価を客観的に議論することは難しくなります。
本来、経営陣の人事や報酬の決定は独立した立場の社外取締役が主導すべきですが、日本ではまだ形骸化している部分があるのが実情です。
では、社外取締役にはどのような役割が求められるのでしょうか。また、取締役会改革の中で、社外取締役はどのように貢献できるとお考えですか?
中村
社外取締役は経営に対する客観的な視点と専門性を提供し、経営陣に対する重要なチェック機能を果たします。
また、取締役会で忌憚なく意見を述べ、戦略議論を活性化する「建設的な挑戦者」となることも期待されます。
ただ、その役割を十分発揮するためには、会社側が適切な情報提供を行い、社外取締役の意見を真摯に受け止める環境を整えることが不可欠です。
取締役会の議論の透明性を高め、データに基づく客観的な評価を行うことは、社外取締役が安心して率直な提言を行える土台となるでしょう。
そのような課題があると認識されながらも、多くの企業で取締役会改革が思うように進んでいないのはなぜでしょうか?
中村
いくつか理由があります。
まず、取締役会を変革しようにも、社内の利害関係者—経営陣や社外取締役も含め—の合意形成を図るのは容易ではありません。
改革を主導すべき取締役会の事務局にも、人手やノウハウが不足しがちです。
また、前例が少ないために「手探り」状態で、不安から踏み出せないケースもあります。
さらに取締役会評価もアンケート等の方法に止まっており、具体的な課題や改善効果を測りにくいのも一因です。
こうしたハードルが重なり、必要性を感じつつも着手できない企業が多いのです。
取締役会のDXと可視化による改革
そうした障壁を乗り越える手立てとして、「取締役会のDX」が重要だと提唱されていますね。取締役会のDXとは具体的に何を指すのでしょうか?
中村
取締役会のDXとは、一言で言えばテクノロジーとデータを活用して取締役会運営を見える化し、継続的な改善につなげることです。
従来、取締役会はブラックボックスになりがちで、どんな議論にどれだけ時間を使っているかさえ十分把握されていませんでした。
DXにより会議資料や議題、発言時間などをデータとして捉え、現状を「見える化」します。
その上で、戦略テーマにもっと時間を割くにはどうするか、会議運営をどう効率化するかといった改善のサイクル(PDCA)を回せるようにするのです。
要は、取締役会の運営にデータドリブンな視点を取り入れ、取締役会自体をアップデートしていく取り組みです。
当社が提供する取締役会DXプラットフォーム「michibiku」は、まさにそのDXを支援するものです。どのようなサービスなのか、具体的にご説明ください。
中村
「michibiku」は重要会議に特化した取締役会DXプラットフォームです。簡単に言えば、システム(ITツール)によって、取締役会の運営効率化と高度化を実現するサービスです。専門コンサルティングによる支援もサービスとして用意しています。
例えば、取締役会の議題管理や資料共有をオンラインで一元化して準備・進行を効率化する一方、会議の議題や質疑の内容・時間配分などのデータを蓄積・分析します。
そして、その分析結果に基づいて取締役会運営の改善提案を行い、実行まで伴走支援します。
これにより、取締役会の現状を客観的に把握し、定量的なエビデンスに基づく改革を継続していくことが可能になります。
実際、ある導入企業では会議時間が短縮される一方で戦略討議の時間が増加するといった成果も出ています。
ガバナンス改革と企業業績の向上
取締役会の改革が企業の業績向上や株価の上昇につながるというのは本当でしょうか。何か実際の例やエビデンスはありますか?
中村
はい、取締役会改革が成果を生む例は着実に出てきています。
例えばニコンでは、新任のCFOが就任直後に取締役会の議論の在り方を徹底的に見直し、その結果経営の意思決定スピードが上がり、業績が見事V字回復しました。
また統計的にも、社外取締役を増やすなどガバナンスを強化した企業ほどROE(自己資本利益率)やTSR(株主総利回り)が高い傾向があるとの調査結果もあります。
近年の日本市場全体を見ても、ガバナンス改革が進んだ企業は余剰資金の有効活用や収益性改善を実現し、株価が見直される例が増えてきました。
要するに、ガバナンス改革は単なるコストではなく、中長期的に企業価値を高める投資と言えるでしょう。
ガバナンスを競争力に変える
コーポレートガバナンスの強化は、従来はどちらかと言えば規制対応や守りの色彩が強いものでした。しかし、今のお話は、それを攻めの経営に活かすべきだということですね?
中村
その通りです。
従来、ガバナンス強化というと「投資家に言われて仕方なくやるもの」という受け止め方もありました。
しかし本質はそうではなく、ガバナンス改革は経営改革そのものです。
取締役会を本当に機能させることは、環境変化への適応力を高め、新規事業への挑戦やリスク管理を的確に行う土台となります。
言わば、攻めの姿勢でガバナンスを活用した企業が、これからの市場で優位に立つでしょう。
最後に、本日のテーマに関して、上場企業の経営陣や社外取締役の方々にメッセージをお願いします。
中村
日本経済の停滞を打破するには、企業一社一社が自らのガバナンスを見直し、「稼ぐ力」を高めていくことが不可欠です。
そのカギとなるのが取締役会の改革だと私は信じています。
取締役会が経営のあるべき姿を示し、実効性を伴って機能すれば、企業はもっと力強く変革に舵を切れるはずです。
当社の名前である「ミチビク」には、経営をあるべき姿へと導きたいという思いを込めています。
あらゆるテクノロジーを活用してガバナンスレベルを向上させ、企業の意思決定をアップデートすることで、日本企業の潜在力を引き出していきましょう。